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黒い扉を開く鍵、ミヒャエル・ハネケ映画祭

いま、渋谷のユーロスペースhttp://www.eurospace.co.jp/
のレイトショーで、アレクサンドル・ソクーロフとミヒャエル・ハネケの特集上映を、隣り合う劇場でやっている。どっちも見たい。しかも、ハネケのほとんどの作品がフィルム契約の関係で日本最終上映とうたわれている。

ハネケの映画は、不快な気分や、すっきりしないもやもやを残すかもしれない。けれど、それでも見なきゃならないというものがある。私の心にある黒い穴を見つめなくてはならない。そうは言っても、たとえば、ハネケは暴力を直接的な描写で描かずに、暴力を痛感させる映画をつくる。だから見ようと思う。


「71フラグメンツ」

「71フラグメンツ」(1994年)を見た。19歳の大学生が銀行で銃を乱射し、本人もすぐあとに自殺した実事件をもとに、そこに至る加害者、居合わせてしまった被害者のそれぞれの日常を断片で綴っている。しかし、出来事の描写の断片には、理由や経緯は説明されていない。積み重なっていくなかで、その人物の底に沈む感情やどういう判断をする人なのかがなんとなく伝わって来る。

たとえば、犠牲者のなかに、現金輸送の仕事をする中年の男性がいる。赤ん坊は病気がちらしく、妻は塞いでいる。祈る。男が「6時頃に帰る」と告げることで、負担を分け合おうと考えていることは見える。夕食で口論になり、夫は妻に思わず手が出る。見えないくらいの早さ。互いに謝る。だが、この傷は、長く引きずるだろうと見る者によっては想像するかもしれない。

大学生は、仲間と、三角に切った紙を並べて十字にするゲームをよくやっている。コンピュータプログラムの勉強をしているのかもしれない。その子どものような遊びは、常にお金の絡んだ賭け事になる。母親との電話、高速道路とクルマ、田舎に帰ることがわかる。融通の利かない機械。大学生の生活はありふれた「いらつき」や「退屈」に包囲されている。同時に、カメラの映すものは、時折美しかったり不思議だったりするが、そうは見えないなんでもないものだ。やかんに火をつけるとか、道路の灯りとか。

監督が語るように「映画は鏡だ」。私は、映画の人物の偽善に、自分の価値判断やふるまいもこうではないだろうかと思って沈み込み、耐える。子どもの頃に見てしまった戦争の死体写真や、叔母の亡骸なども思い出す。

5月にも上映が決定し(モーニングショーだ)、新作「隠された記憶」もロードショー上映される。


「ベニーズ・ビデオ」


『PRESTO』と『はじめてのやのあきこ』

「71フラグメンツ」の大学生は、怒りの沸点に達する時、クルマでヒップホップを聴いていた。あれが、矢野顕子(のよう)だったら、4人はまだ生きていただろうなあと思う(もちろんこれは例えです)。



矢野顕子のアルバムを聴くと、泣いてしまう。それは、悲しみを解消する涙ではなく、そのあと仕事が手に着かないくらいに深かったりする場合もあるので、なんだかしょっちゅうは聴けないんだな。でも、ずっと聴くのは、あっこちゃんの懐が、海のように山のように地のように広いからだ。時にはマグマのようだし。鳥のようだし、海をぽーんとはねる魚のようだし。だから、からからと笑ってしまうこともある。正直でいて人に愛されることはすごいことだ。ほんとは、だからこそ、なんだけど。

私は、もうひとりの正直者を知っている。このアルバムのジャケットをデザインした菊地敦己という人だ。『PRESTO』では、いっしょに収められたDVDのアニメーションのイラストレーションも描いている。菊地さんは、ものすごくスマートで、実はけっこうぎこちなくもがいてるように想像される。だから、つくられてくるものが信頼できる。

だからね、否応無しにいろんなものを浴びる世の中で、見ないふりをせず、なおかつ、何を聴くか、見るか、味わうかはやっぱり大切なんだなあと思う。何をつくるか、も。

矢野顕子『PRESTO』 http://www.bluemark.co.jp/shop/?target=presto
矢野顕子『はじめてのやのあきこ』 http://www.bluemark.co.jp/shop/?target=hajimete-no-YanoAkiko





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