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大森俊克

ミュンスター彫刻プロジェクト レポート




ドイツ北西部の街ミュンスターで、10年ぶり、第四回目となる「ミュンスター彫刻プロジェクト」が、9月30日まで開催中です。カッセルで開かれている「ドクメンタ」、ヴェネツィア・ビエンナーレと時期が重なるとあって、街は活気づいていました。

ミュンスターは中世からの歴史を持つ、ハンザ同盟都市としても栄えた古都で、また早くから環境問題に取り組んできた、緑地や公園の多い、とても美しい街です。ちょうど40年前の67年に、ヘンリー・ムーアの彫刻の寄贈を市長が拒否したことをきっかけとして、市民を巻き込んだ、社会・生活・芸術についての議論から発展し、この現代美術の野外展は生まれました。このため、アーティストはミュンスターという街の持つ特性、そこでの人々と作品のかかわり合い方をじっくり考えながら、事前に街を訪れ、ときにはシンポジウムやディスカッションの場を設けて、丁寧に作品のコンセプト作りをしていきます。作品を含め、こうした社会空間がつくられていくプロセスこそが、「彫刻プロジェクト」のなによりの醍醐味となっています。ここでは、今回目玉となる作品のうちいくつかを、紹介していきたいと思います。



とはいうものの、やはり一般的に前衛的なアートは、受け入れがたいものでしょうか。74年にある広場に設置された、動くキネティック・アートの彫刻には、市民からつよい非難の声が上がりました。ベルリンのアーティスト、Manfred Perniceはその場所に、反省を踏まえてか(?)憩いの場となるようなあずま屋をつくります。Perniceの立体は、部屋や建築物としても機能し、そこにインテリアとして貼られた写真、テーブルに置かれた本は、都市と居住、観光と消費行為についての、社会学的考察にうらづけられたもの。けっして奇抜さはありませんが、社会に溶け込みながらも人々に思考をうながす、「彫刻プロジェクト」の好例であるといえるでしょう。



事前に発表されていた参加予定アーティストには若干の変更がくわえられました。結果は前回の約半分となる、34組。厳選されたともいえますが、大御所がおおく、若いアーティストがやや少ないような気もします。そんな中、若手でありつつ頑張っていたのが、ポーランド人作家のPawel Althamer。コンセプトにあわせて幅広く表現を変えていくAlthamerは、市バスをギャラリーのように真っ白に塗りかえて、乗客を「作品」に見立てたり、ホームレスの人達にパフォーマンスをさせたりと、アートと社会の関係に敏感でありつつ、これをミニマルな視覚表現に集約させるセンスが評価を受けています。今回Althamerは、公園のなだらかにつづく丘陵に、1kmにもおよぶ一本の小道をつくりました。何の変哲もない、そして本来の「彫刻」のイメージとはおおよそかけ離れたものですが、思考のプロセス、人との出合い、そして環境への意識を促すという、プロジェクト発足当時のモチヴェーションにしたがいながら、同時に新しい時代の表現傾向もみせている、良作といえるでしょう。



ミュンスターにはドイツ語で、「修道院」という意味もあります。その名の通り、ミュンスターの興り(おこり)は8世紀に建てられた修道院といいますから、宗教とのかかわりが深い街でもあるのです。ロサンゼルスの「バッド・アート」の担い手、Mike Kelleyは今回、塩になってしまった女性とそれを舐めにあつまる動物たちという、創世記に出てくる逸話をもとに、動物園をつくりました。サーカステントのような小屋のなかや周りには、ヤギやら牛やらニワトリ、ロバが放し飼いです。「動物に触れられる」ということなのですが、触らずとも向こうからやってきます。臭いです。Kelleyの作品は、見た目のばかばかしさとは裏腹に、常にきわめてリジッド(厳格)なコンセプトをもっているのですが、今回ミュンスターでは肩の力を抜いて、たのしめることに重点を置いたようにみえます。とはいえ、キリスト教の教条的なエピソードのなかに、一種の猥褻で下品な要素をとらえて現実化してしまうあたり、いつものKelleyのアクの強さを感じさせます。



Dominique Gonzalez-Foersterは、湖畔の芝地に、これまでの「彫刻プロジェクト」の代表作を選び、これを4分の1の縮尺で再現しました。Foersterは、自らのオリジナルの作品をここにくわえていません。いってみれば、「展覧会のなかの展覧会」という、入れ子のようなユーモラスな仕組みになっているのです。大規模な展覧会でこのようなアイデアを発揮したのは、しかしFoersterが最初ではありません。72年の「ドクメンタ」で、ポップ・アーティストのクレス・オルデンバーグは「ミッキーマウス博物館」を、コンセプチュアル・アーティストのマルセル・ブロータスは「鷲の博物館」を展示しました。最近では、トム・サックスというニューヨークのアーティストが、同じような手法で過去のアートや建築のレプリカを集め、展示しています。Foersterの今作はそうしたコンセプト重視型というより、親しみやすいサイズからも、とくに子供達に人気を博していた点が成功といえます。



レジャー用品や人形をもちいた、Isa Genzkenの作品です。30年以上のキャリアを持つGenzken。カラフル、そして楽しげで、たくさんの人が興味を示していました。ただし、今作はGenzkenが数年まえから展開している、シリーズものの一部。まったく同じような作品を、今年はじめにさるニューヨークのギャラリーに展示していました。「つかい回し」は大御所の特権でしょうか?



対照的に、今回もっともミュンスターという街にコミットしていたのが、ロンドンのアーティスト、Gustav Metzgerのプロジェクトです。第二次世界大戦の爆撃によって、壊滅的な被害を受けたミュンスター。その107か所のポイントに、会期中毎日、フォークリフトで小さな石のブロックが置かれていきます。1926年、ドイツに生まれたMetzgerはポーランドに追放され、ユダヤ系の子供をナチスから救う政策によって、イギリスへ逃れました。今回、当時ドイツ軍の空爆によってもっとも痛手を受けたとされる、イギリスのコヴェントリーという街でも、Metzgerは同様のプロジェクトを展開させているそうです。過去の過ちを忘れないための戦争記念碑を、現代美術のミニマルな表現に落としこみ、街全体にひろげるという点で、今回の「彫刻プロジェクト」への最大の貢献といえる作品になっています。さらに、コンピューターをつかって当日の設置ポイントを決めていくという方法も、なかなか斬新です。チケットセンターのあるWestfaelischer Kunstvereinの2Fに、プロジェクトの進捗の様子が展示中。



これと似たように、会期中1週間ごとに場所を移しながら展示(路上駐車!)されている、Michael Asherのキャラバンの作品です。「彫刻プロジェクト」の第一回目から、欠かさず登場しているこのキャラバン。じつは7月21日の未明、停めてあったところから忽然と姿を消しました。「彫刻プロジェクト」の運営委員会が警察に盗難届を提出したところ、キャラバンは後日別のところで発見。チーフキュレーターのカスパー・ケーニヒいわく、「愉快犯のしわざだろう」。以前にも、オルデンバーグの球体の彫刻が、ころがされて湖に落ちそうになっていたり……とかくアートは市民のいたずら心をかき立ててしまうもののようです。



今回とりわけ目立つのは、映像作品の多さです。計6点が、映像をつかったものです。キュレーションをつとめたケーニヒは、昨今のアートシーンを席巻していた映像表現の波が静まってきた今、あえてその意味を問い直したかったといいます。ドイツ人アーティストClemens von Wedemeyerは、ミュンスターの中央駅で人々を撮影し、独白的なナレーションとともにこれを映画に仕立てました。隠しカメラからのぞき見たかのような市民たちのスローモーションは、ベアト・ストロイリというスイス人の現代写真家の作風をおもわせます。日常的な光景と内省的なつぶやきのギャップから浮かびあがる個々人のアイデンティティーは、ヨーロッパという移民社会のはらむ問題を示してもいます。(写真は、Wedemeyerの作品を上映している映画館)



最後に、ブルース・ナウマンの作品。第一回目のとき、安全面からお蔵入りとなってしまったプロジェクトを、30年後の今回、はれて実現させました。25メートル四方のコンクリートの方形が、ちょうどピラミッドを逆さにしたような形になっています。ナウマンの作品は、その洗練されたフォーム・素材感の心地よさとは逆に、現代社会によって規格化された空間がもたらす、隠された暴力的な面をテーマにしています。本作も、初期のモダニズム建築をおもわせつつ、「自然」に見られるものの形を一切取りのぞくことで人間を「社会化」させるという、現代社会の理不尽な側面をあばきます。ちょうどアリ地獄のような、ゆったりとした本作の勾配を下るように、現代人は今、非人間的な奈落の底へと近づいているのかもしれません。

早足で紹介しましたが、まだまだ多くの作品が、素晴らしい景観の市街・郊外にちらばって展示されています。ヨーロッパの快適な夏を楽しみがてら、足を運ばれてみてはいかがでしょうか。
(大森俊克)












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