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ニューヨーク2
今日のグローバル化した資本主義世界で、貧富の格差が過去にも増して大きくなっている。それを告発する映画が公開されていた。アフリカからアメリカに届いた叫び声であるこの作品は、“Bamako”というタイトル通り、マリの首都バマコに暮らす人々の生活と、裁判所(人家の庭先)で行なわれる弾劾裁判の様子を描いたストレートな物語だ。監督は、マリ出身のAbderrahmane Sissako。この映画は、アフリカの現在の苦難が、先進国による抑圧と搾取が原因であると断言してはばからない。開発協力という名の下に援助を受けたアフリカ諸国は、そのために債務を背負うこととなり、今厳しい返済の取立て(国家予算に占める返済額の割合は尋常ではない)に喘いでいる。その結果、先進諸国に資金が還流し、アフリカの貧困はますます悪化しどん底に落ち込む。この悪循環を断ち切るには、世界銀行から課せられた負債を帳消しにするしかない。その債務が不当なのでなおさらこの処置は正当であると、裁判所で証言する登場人物は語る。途上国の発展にほとんど寄与しなかったのだから、その責任を取るべきなのは援助した先進国である。したがって返還の義務はない、と。
しかし、映画はそのような厳粛な裁判のシーンだけで構成されているわけではない。その傍らで繰り広げられる、バマコの住民の日常の暮らしが物静かに描き出される。病気でベッドに寝たきりの一家の主人、仕事のない男たちの寄るべない姿、生活を支える女たちの健気な働き、子供たちの無邪気な表情、そして、その間に彼らの願望が投影された幻想が挿入される。ウエスタン映画の銃撃シーンで、殺すのは黒人で殺されるのは白人。アートは、このようなアフリカの悲惨な現状や、世界的に深刻化する経済問題と無関係なのか。昨今のアートフェアにおける取引の急激な増大と、それにともなう作品の価格の高騰。これらの現象の基となる資金は、どこから流れ込んでくるのか? もし誰かの犠牲の上に現在のアート界の繁栄があるとすれば・・・。短絡的な決め付けは控えたほうがよいが、“Bamako”は、われわれにこの問題に対する真摯な反省を迫る。
男性の野太い声が、スピーカーを通して画廊内に響き渡る。それに、ニューヨークがベースのノイズ・ミュージックのグループ、New Humansが演奏する電子音が絡みつく。チェルシーで行なわれたヴィト・アコンチのパフォーマンスのシーンである。アコンチの声は、幼児の甘えたママ、パパの呼び掛けに始まり、最後にまたそれに戻ってくるのだが、その間に、性的行為を暗示する言葉が強迫的に繰り返されて、初期のアコンチのパフォーマンスを彷彿とさせた。声の内容は、主に男性の欲望の暴力性(「欲望は外部に向かう」)と、性的な一体化(「彼はほとんど彼女のようになった」)である。驚いたのは、パフォーマンスが進むにしたがって、会場の雰囲気が急速に性的な意味を帯び、集った鑑賞者の性を際立たせたことだ。同時に電子音も、アコンチの男性の低いこもった声の存在によって、女性的な役割を演じるようになる。アコンチの世界は、男性独特の能動性(不能も含める)を示して、小野洋子の一見受動的だが豊穣なwitchとは対照的である。アコンチのパフォーマンスの背景に置いてあったのが、New Humansのメンバーの一人、日系アメリカ人のMika Tajimaによるインスタレーション作品であり、彼女の才能の片鱗を窺わせた。
最近チェルシーの画廊で、ポリティカルな表現を多く見受けるようになった。ダンス・シアターでも、フォーサイスを始めとして、そうした志向もつ作品が増えてきたように感じる。ニューヨーク滞在中に、ポリティカルなメッセージを発信する公演に出会った。日常的な仕草、家庭用品の使用などフェミニズムの視点が基本のダンス“Dog Days”を振付けたのは、Guta Hedewig。このダンスで、彼女はブッシュが喋った愚かしい言辞を槍玉に挙げ、それを19のエピソードに分けてざくざくと小気味よく料理していく。それは、強権的なブッシュ政治にアメリカ人が愛想を尽かしたことを如実に示すものだが、アメリカが元々彼を選択しなければ、こういう事態にはならなかったはずである。その代償は、Hedewigの風刺の効いたダンスでは埋めることができないほど高価である。
帰路の機中で、リドリー・スコットの映画を観賞。注目を集めそうな話題ならすぐさま飛びつくスコットの新作は、『ア・グッド・イヤー』。金が幸福を生むといういかにも現代風成功の物語だが、そこから教訓を汲むとすれば、マネー・ゲームに狂奔するイギリス人が心を入れ替えて、ロダンやゴッホに代表される快楽のヨーロッパに回帰する、ということか。「金か人生か」を選択しなければならない岐路に立たされた幸運な人にはお薦めの佳作。
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