LOOKERS INTERVIEW No.011(1/2)

マンガ家 しりあがり寿氏
多摩美術大学卒業後、キリンビールに入社。会社勤めをしながらマンガ家として活動。代表作に『真夜中の弥次さん喜多さん』『弥次喜多 in DEEP』などがある。マンガだけにとどまらず、映像作家、アーティストとしても活躍中。横浜美術館での展覧会「日本X画展」(2006)に参加中。
しりあがり寿氏のオフィシャルウェブサイト『おーい!さるやまハゲの助』
http://www.saruhage.com
LOAPS:しりあがりさんはこれまで、マンガ、エッセイ、小説、映画、ショートムービーと様々な分野でご活躍されていますが、そもそもどうやって今のクリエイティブな道に進もうと思ったのか、なぜマンガ家になろうと思ったのでしょうか?
昔からマンガが好きだったんですよね。子供の頃から読むのも描くのもずっと好きで。僕にとって、考えてたことを表現するのにマンガはちょうどよい媒体だったんでしょうね。でも欲張りだから、いろいろとやりたいじゃないですか。もしかしてマンガ以外のものに可能性があるのかもしれないし、人が面白いことをやってるとつい羨ましくなって、例えば自分もムービーを作りたい、って思うし。そんな感じで自然にここまで来た感じです。
LOAPS:美大への進学も、子供の頃からのマンガ好きの延長線上といった感じでしたか?
そうですね。高校一年生の頃かな、「美大に進学しよう」って思って。高校の先生が絵を教えてくれてたんで。今考えると、絵がそんなに上手いわけでもなかったんです。でも、周りがほめると本人はその気になっちゃうんですよ。で、そのままするすると美大に入っちゃって。よく止められなかったなあ。けっこうヤバイですよね、美大って。食っていけないから。今、もし当時の自分に会えたら、普通の大学に行ったほうがいいんじゃないかって言うでしょうね(笑)。

LOAPS:でも、しりあがりさんは美大を卒業した後、ビール会社に就職されましたよね。それは、先ほどおっしゃった「普通の大学」を出て企業に就職する学生たちのように、企業人として社会に出たい、という気持ちがあったからなのですか?
いや、企業人として働きたいなんてまったく思いませんでした。でも食わないといけないから。小心者なんで、決まった収入がないとダメなんですよ。
LOAPS:LOAPSのメンバー、若手アーティストの中には、卒業後、就職しながら制作できるのか、土日に余裕をもって制作に時間を費やせるのか、という心配をしている人は多いと思うんです。仕事と制作を両立させた工夫や、そうしたい若手アーティストにアドバイスはありますか。
まず、会社での仕事がそこまで美術とかけ離れたことではなかったことが大きいですね。宣伝部だったんですが、実は宣伝をやってみたかったんですよ。会社も面白かった。上司がつまらなくて嫌だったこともなかったし。あと、やっぱり思うのが、二足のわらじで時間がないからできないなんて言ってたら、やっぱりなれませんよね。僕はそうでもないですけど、週刊誌で連載しているマンガ家の人なんてすごい忙しいわけじゃないですか。週末しかマンガを描けないとか、そういった時間がない状況でもできる人じゃないとプロにはなれないような気がしますね。

LOAPS:若いアーティストには、アルバイトなどで生計を立てながら制作を続ける人が多いのですが、フリーターとしてではなく、しりあがりさんのように社会に出たほうがいいと思いますか?
うーん、アルバイトで得られることもいろいろあると思うけど、例えば世の中の仕組みとか、組織はどう動いているか、とかそういった大きなことになるとアルバイトでは分かりにくいと思うんです。しきたりや言葉遣い、どうやって社会は動いているのか、そういったことは会社で学ぶ方が多いと思う。あと、課長とか部長になる人って、やっぱり偉いんですよ。マンガの中だと、大体が嫌なヤツとして描かれているけど(笑)。でも会社で出世する人ってそれなりに偉くて、言ってみれば目標になりますから。バイトだと、なかなか周りに人間としての目標となる人がいないでしょう。バイトをするのが全然悪いとは思わないけど、バイトで得られないものはやっぱりありますよね。
LOAPS:そうした社会人生活で得たものは、その後に作家一筋で立ち上がるときにやはり大きな糧になりましたか?
そうですね、良くも悪くも(笑)。やっていた仕事が宣伝部ということもあって、モノを作る、広告を作る、コマーシャルな世界なんですが、その川上と川下を経験したような感じで。要するに、宣伝部から広告代理店、そこからプロダクションに行って、クリエーターは最後じゃないですか、カメラマンとか。マンガ家もそこにいるわけですが。そうすると大まかな仕組みが分かりますよね。マンガ家やアーティストっていうのはいかにちっぽけなものか、人気が出たかと思ったらまたなくなったり、その人気も力があるからって訳でもないし、何かの弾みで人気が出てみたり。要するに、すごく当てにならない、安心できないものに見えてきちゃうんです、アーティストっていう立場は。だから作家として一本立ちするときには、根詰めてやるしかないよな、それはやっぱり厳しいもんだよなっていうのは身に沁みてましたよね。
LOAPS:しりあがりさんの最近の活動ですが、ネット上でショートムービー(「寸志でございます」(*)「SMロボ シバラレダイン」(*)など)を公開されていますが、ウェブで作品を発表するようになったきっかけとは?

そうですね、ニフティさんから声をかけてもらったのが直接のきっかけですけど、ウェブ上での仕事はなるべく受けるようにしてるんです。表現する場や土俵って変化してますよね。例えば、本という媒体がなくなると自分の表現できる場がなくなる。それはやっぱり嫌じゃないですか。だから仮に本がなくなったら生きていけるのかとか、考えますよね。それが中途半端でよくないのかもしれないけど。でも世の中の変化に翻弄されるのはあまり気分がよくないというか、やっぱりいろんな所に表現の足掛かりを持ってたいな、という気はしますね。まあでも、それはあんまりお勧めしませんが(笑)。やっぱり力が分散されるし、僕みたいに割と中途半端なことでも許容されている人だったら許されるかもしれないけど。すごく高い技術で、あるジャンルの一線で活躍する人って、他のことをすると見劣りしちゃうかもしれない。僕なんかはどの世界でも中途半端だから、ある意味やってられるというか。まあ、逆にそれが表現の場の多様性と、より多数の人が作品にアクセスできることに繋がるのかもしれませんけど。
注)『寸志でございます』:しりあがり氏が、ニフティのサイトNeoM republic上に持つショートショートムービーのコーナー。実写からアニメ作品まで月一回の更新。
http://neom.cocolog-nifty.com/republic/cat5139594
注)『SMロボ シバラレダイン』:上記『寸志でございます』にて連載中のアニメ作品。昔のロボットアニメを彷彿とさせるモノクロ画面と主題歌。が、主役のロボはマゾヒスト。
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