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 篠山紀信x月船さらら「FREE」  (2/2) 

篠山紀信x月船さらら
「FREE」
2008年7月19日(土)〜2008年8月12日(火)

〜僕から私へ、私から俺へ。魂と肉体の両性を彷徨する自由。〜
T&G ARTS
http://www.t-g-arts.com/modules/contents/


写真集「FREE」
http://www.shinoyamakishin.jp/top/2008/06/post_14.html




篠山:そういったところが、アート的っていえばアート的なんですよね。非常に分かりやすく解説して、これはエロだよとか、この女がこうやって男になるんだよみたいな、そういうことじゃないんだよね。だからその辺の交錯したところがある種の知的な要素を刺激する作品なんですよね。


吉井:このシーンとシーンのつなぎは、見る側が自分なりに感じとって想像していかなければいけない。

篠山:そうそう。そんな感じが出ていると思う。

吉井:月船さんにお伺いしたいんですけれども、今回、先生がおっしゃったような芸術的な仕掛けのヒロインになられたわけです。こういうアーティストとセッションをするのは、お互いが成長していったり、新しい発見のできる場だと思うんですね。これまで舞台や映画では、台詞や言葉を使って表現されてきましたが、今回は全く言葉や台詞がないヒロインをやられるうえで、気になったことや苦労されたこと、逆に、すごく勉強になったことなどありますでしょうか。

月船:テスト撮影のときから、篠山先生は、私にとって名演出家であるということが分かったんです。とくに台詞をもらったわけではないし、こういう設定で、こういうふうにしてくれって言われているわけではないんですけど・・・。この表紙になっている写真は、テスト撮影の中でもいちばん最初に撮ったぐらいのものなんですけど、バックの紙を引かれてそこに立って、先生の声を聞いて集中していると、どう存在していていいかっていうことが分かっていたって感じなんです。それが分からないときっていうのは、自分で何か表現しようとしちゃうと、すぐに表現過多になってしまって、それじゃ全然つまらない写真になるんです。だからもう、私は先生の声に耳を澄まして、周りの空気を感じてそこにいたっていう感じですね。道路だったり薬局だったり、本当に日常にいるような感じのところに立って、さあ脱いでみろ、さあ裸になれって言われたら、全然そのときには何の抵抗もなく裸になれたし、どう立っていいのか分かんないとかじゃなくて、普通に立てた。あんまり指示はなかったんですよ。だからそれは先生と息を合わせて、本当にセッションというか即興的な感じで表現できたなと。



吉井:言葉とか台詞をつかえない不安は撮影中感じられることはなかったですか。

月船:なかったですね。逆にそんなものがないことがよかった。私の仕事は、やっぱり言葉に縛られてするものだと思うんですよ。人が書いた言葉を自分の中から出てきているように喋るものだから、それがないってことがすごい自由で、不安っていうより、さらけ出していい感じでしたね。

篠山:そうそうそう。
吉井:この写真集からは、月船さららさんの自信もすごく感じられます。最初にお話したように、僕は性別だけじゃなくて年齢も超越しているような気がするんですよ。




篠山:あなたモデルになってるときどんな気持ちでやっているのよ、というのをね、僕が撮ったいろんなモデルさんに聞きますよ。だけどね、本当に正確な応えって難しいと思うんだよね。そのなかでいま彼女が言ったのは、かなり正確な答えだと思うんですよ。やっぱり、芝居をずっとやっている人っていうのは、それこそ原作があって脚本があって台詞があって、相手役があって、その役の内面をどういうふうに表現しようかということじゃないですか。写真っていうのは、そういうものが何もないわけですよ。だから、結局何かっていうと、撮っている人への信頼感みたいなものですよね。

吉井:写真作品というのはいちばんミニマル、すなわち最小限ですからね。最小限で最大限のものを引き出す。篠山紀信先生と月船さららさんの二人で、最大限の、映画以上の面白みと興奮を与えなきゃいけない。

篠山:それはだから、僕が撮りたい撮りたいって口で言っても、さっき言ったような世俗のいろんなハードルがあったわけでしょ。それをなかなか越えられない。でも、いったんテストでそれを越えてみると、ぱっと分かる。一回分かっちゃったら、次何にも説明することないんですよ。あとは、ばーっと自由にいけちゃうんですよ。そのね、分かるか分かんないかだけね。例えば5ページのグラビアを撮るんだったら、まあ分かんなくても適当に撮れちゃうけど。表紙だったら、その本の読者に向けたいちばんいい部分を引っ張り出して撮ればいい。これが仕事としてはいつもやっていることでしょ。これが一冊になるってことは、それじゃ出来ないわけだから。その無言の確認みたいなものが出来たんで、この写真集が出来たんでしょうね。

吉井:そうですね。ただ、月船さららさんの写真集の構想があって、そこに先生の無意識の中でのアーティストとしての発想や表現が出ていると思うんですよね。

篠山:もちろん。

吉井:だから、こういうストーリーに展開している。

篠山:だけど、完全な絵があったわけでもなんでもないからね。

吉井:おそらくそうでしょうね。いまお話を聞いててそう思います。無意識のすごさっていうか、それが芸術の本質的な部分でもあると思うんですよね。月船さんはそういう作品のモデルになって、これから女優を続けていくうえで、勉強になったところっていうのは何かありますか。

月船:宝塚を辞めてから、この写真集の前にもいくつかお仕事をしましたけれども、やっぱり世界で認められている方との一回の仕事っていうのは、そのたった一回で、いくつかの舞台、映画を経験したことを超えるなっていうのが、写真を撮り終えたあとの感想ですね。じゃあ、写真を撮る前と自分がどう変わったかっていうと、何だろうな・・・。表現として雑多な細かいことを気にしなくなったというか・・・。




篠山:えっ?

月船:セコくなくいれるっていうかですね。(笑)やっぱり写真を撮るまで、もっといろんな不安があったんですね。例えば、私は篠山さんに撮ってもらうだけのスタイルも持ち合わせてないし、表現力もないし、っていうのがあったんです。だけど、この写真集を撮っている間は、もっときれいに写りたいという気持ちとか、不思議と全くなくて。きれいな体を用意しなきゃいけないという気持ちもなかった。美人に写るようにっていう表情の研究をするなんてこともなかったし、この写真集がものすごく売れればいいのにとかも考えなかった。自分の知名度が上がるかななんて、そんなことも考えなかったんですよ。

吉井:ええ。

月船:でも、宝塚を辞めてからっていうのは、芸能界で仕事しようと思ったら、少しでもきれいでいなきゃいけないとか、たくさんの人に自分を知ってほしいとかっていう気持ちってあったと思うんです。それが、この写真集を撮ってる期間なかったんですよね。それで、これだけすごいものが出来てしまった。この写真集を見たときに、私は撮る前ってもっと、セコいっていうか、ちっちゃいことをこまごまと自分で考えてたなって。本当にすごいアーティストの方とか、もしかしたら芝居でもすごい役者さんとやったときっていうのは、そんなちっちゃいこと考えないで、自分が自分のままでいれば何かを引き出してくれるんだと思うんですね。私のそのままのところで何がいいかっていうことを、すごい引き出して下さって、あたしがあたしのままでいればよかった。そういう経験をしたことに驚きました。

吉井:なるほどね。この写真集を見ても、僕はものすごく自信のある方だなと思っていました。でも、いまお話を聞いていると、いろいろな不安と、自分を取り繕っている自分、虚像っていうのを先生のカメラの前で取り払っていって、素直な自分の表現、純粋なものを表現すればいいものができるっていうのを実感されたということですね。

月船:そうですね。そうだと思います。

吉井:今回、T&Gアーツというホワイトキューブの空間で展覧会をやるんですけども、写真の定型のフォーマットとは違って、4種類から5種類の大小のサイズに分けて、写真集とはまた違った見え方がすると思うんですけども、そのことについて先生と月船さんにご感想を頂ければと思います。

篠山:写真集は印刷物ですから、エディトリアルとして、編集されていくことの面白さもあるんですよね。いつでもどこへでも持って行けるし、何回でも見れるし。展覧会はライブですから、直に僕の作品にふれられるわけだよね。だから、ちょっと違うんですよね。興奮の仕方、見え方がね。ライブ感が出て、その空間全体の中にポーンと自分が入って上手くはまったら、すごく展覧会って面白いものになると思う。だから、写真集と同じじゃ、ほんとはいけないんです。写真集と同じだったら、家にいて寝転がって見てられるんだからね。わざわざ電車に乗って、六本木まで行って見るんだから、それはやっぱり違うものでないとだめ。違う感覚、喜びがなければ、展覧会に行った意味がない。そういう意味で、写真集に使ってない写真もずいぶんあります。それから、構成については、どうぞ吉井さんからおっしゃって下さい。

吉井:先生の展覧会は僕にとっては特別なものがあります。普通は展覧会の会場ありきで写真展をする、そのあとカタログなり写真集を作るっていうのがいつも経験している流れなんですけど、先生の展覧会をお手伝いさせて頂いているときは、まず写真集があって、そのなかから選んでいく。僕としてはいつもと違った形で、構成をしていかなきゃいけないっていう、先生から僕に挑戦状を突きつけられてるような気がするんですね。今回は、作品サイズのバリエーションをつけて、短編を見ているようにお客さんをどんどん引き込んでいく、でも帰るときには、何かちょっと分からなくなるような構成で挑んでみようかなと思いました。映画でいえばオムニバス映画のように、それぞれのストーリーが完結していて、最後に見終わったら、いったい篠山紀信とは何者だとか、月船さららとは、化け物のような女優にこれから変わっていくかもしれないっていう、そういう想像をかきたてる展開にしたいと思いました。それと、ホワイトキューブというスペースでの展覧会は空気感が非常に重要だと思いますので、大きい写真を効果的に使いながら表現していくことですね。写真展の場合は、オーディエンスと写真が一対一向き合って、ちょっと目をそらせば全体も見渡せるような不思議な空間が作られていきます。月船さんにとっては新しい体験で、舞台や映画、写真集とはまたちょっと違う自分を発見できるんじゃないかと思うんですけども、自分の作品が写真展に飾られて、アート作品になっていくことについては、何か特別な喜びや不安はありますか。

月船:私がはじめてT&Gアーツで、篠山先生の高岡早紀さんの写真展を見たときに、素敵な空間に写真が並んでいて、すごく感動しました。写真展の前にその写真集も見たんですけど、また全然違う感覚があったんですね。ギャラリーっていいなって思ったんです。今回の写真集のときにも、ギャラリーでやりたいなって言ってたんですけど、それが実現できてがすごく嬉しいですね。

吉井:先生としては、T&Gアーツで五回目の展覧会になるわけですけども、今までと違う、何か特別に感じる点はありますでしょうか。

篠山:いま吉井さんが言ったように、ひとつひとつのシークエンスは、わりと短編のストーリーがあるみたいな感じがするんですよね。

吉井:展覧会が楽しみですね。本日はどうも有り難うございました。





写真家 篠山紀信氏

日本を代表する写真家。学生時代から頭角を現し、40年以上、日本の写真業界のトップとしてリードし続け、常に新鮮な技法と感覚で話題に富んだ作品を発表し続けている。主な作品に「篠山紀信の世界」「女形・玉三郎」「坂東玉三郎」「家」「パリ」など多数。
http://www.shinoyamakishin.jp/sk/index.html





女優 月船さらら氏

宝塚歌劇団月組で男役スターとして約10年間活躍後、2005年に引退、女優に転身、映画や舞台で新しい表現活動開始。06年には蜷川美花監督「さくらん」にて昼顔役を始め、08年、天願大介監督「世界で一番美しい夜」にヒロインとして出演。
http://www.beautiful-night.net/






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